こんにちわ。ジーパン会計士です。
今日は、RIZAPグループ(E00518)の戦略失敗を決算書から読む方法を書きます。
先日記載した、決算書の読み方の実践になります。
ライザップについては、過去にM&Aを繰り返し、負ののれんを計上することにより利益の大半を得ていたという記事が話題になりました。
具体的には下の記事です
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37873510W8A111C1000000/


負ののれん発生益は、決算書を読み込むことで判明できます
現に僕は、この日経の記事が出る前に、RIZAPグループの営業利益の大半が負ののれんであることを読み解き、そして、利益の大半が負ののれんであればRIZAPグループの今後の立て直しは厳しいんじゃないか、という推測をしました。
この記事を読むことで、負ののれんという営業から生じていない異常な利益を決算書から読み解くこと、決算書のP/LとC/Fとの見方が分かります。
負ののれんとは
負ののれんとは、割安な買収に伴う会計上の利益のことを指しています。

イメージとしては上の図のような感じになります。
割安買収(株価が低いことなどを起因に、安い価格で買収すること)に伴い、被買収会社の純資産との差額を「負ののれん」として認識します。
少し専門的になりますが、PBR1未満の会社を買収すると負ののれんが生じやすいと言われています。
PBRとは「株価純資産倍率」のことで、正式名はPrice Book-Value Ratioです。
その計算式は、株価÷一株当たり純資産 です

上図において、①が一株当たり純資産にあたる部分であり、②部分が株価にあたる部分(実際には買収時のプレミアムが別で追加される時がありますが、一旦は無視)になります。
上図の③の通り、PBR1未満の状態とは、B(Book Value=純資産)がP(Price=株価)より大きい状態であり、その差額は「負ののれん」として会計上認識する
ということになります。
負ののれんは、日本会計基準においても、IFRSにおいても、一括で利益計上として処理されます。
結果、負ののれんを計上していても、それは会計上のテクニックから生じる差異であり、実際の営業活動から生じる利益とは全く別のものである、と言えます。
・PBR1未満の会社を買収すると負ののれんが生じやすい
・会計処理は一括で利益として処理する
決算書の読み方①まずはPL
それではまずRIZAPグループの決算書を見ていきましょう!
僕は、決算書としては、短信(四半期・年度末)、四半期報告書、有価証券報告書を主に見ています
負ののれんが問題となった、RIZAPグループの第15期(2018年3月期)の有価証券報告書を対象にします。

下のRIZAPグループのHPから見ることができます。
損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、CF計算書(C/F)は第5【経理の状況】に記載されています。
P3の目次を見ると48ページ以降です。

それではまず、51ページの連結損益計算書を見ていきましょう。
下の記事にあります通りですね。
51ページに記載の連結損益計算書(P/L)は以下の通りです。

左が前期で、右が当期です。当期=2018年3月期です。
これを見て、僕の気づき事項は
- 当期の売上は1,362億円、営業利益が135億円、当期利益は107億円
- 売上高は前期より大幅アップ。前期は952億円、当期はその1.4倍くらい 。売上増加=会社の事業拡大に勢いがある
- 営業利益も増益。前期は102億円、当期は135億円。営業利益が増えている=しっかり利益のある事業が伸びている
これくらいです。あくまでもP/Lのみを見ての気づきです。
えっ!?負ののれんの件は!?
というツッコミが出るかと思います。

対して、日本基準は、基本的に特別利益に計上されることが多く、ぱっと見でわかることができます。
・RIZAPグループの2018/3期のP/Lを見ると、文句なしの好業績
・だが、負ののれん発生益は、IFRSだとP/Lのみではわからない
決算書の読み方②PLの営業利益とCFの営業CFを見比べる
それでは、次に、P/Lの営業利益とキャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローの比較に入りましょう。
これも、決算書の読み方から来ています。
それでは、連結キャッシュフロー計算書を見ていきましょう。
54ページに記載してあります。

ここでまず見るべきポイントは
- 損益計算書(P/L)の営業利益とキャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローは近い水準になる
- 営業利益には非資金流出項目の減価償却費が入っているので、固定資産が多い会社だと、損益計算書(P/L)の営業利益+減価償却費=連結キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローの金額になる
- もし、差額が出ていればその差額を分析することで、決算書の真実が見えてくる
の3つです
それでは、営業利益と営業キャッシュフローとの違いを見ていきましょう!

あれ?桁が違くね!?
まずはこう思ってください
営業利益は100憶円単位で計上しているけど、営業キャッシュフローは、1億円前後の金額。しかも2年連続で
これは正常ではありません。

そうすると、明らかに、営業キャッシュフローの「その他」で2年連続マイナス70億円、マイナス76億円と大幅減少になっていることに気づきます。

なんだこれ???
この段階では、そう思っていただけるだけで十分です。
なぜなら、キャッシュフロー計算書の注記事項は少なく、その他の分析が難しい(or無理)だと思われるためです。
・設備投資が多い会社は、営業利益+減価償却費が営業キャッシュフローに近い水準になる
・差が大きければ、疑問を持つ
決算書の読み方③必要な注記「だけ」を読もう
それでは、最終段階のP/Lの注記に入りましょう
まずは、P/Lをもう一度見直しましょう!

ここで注目するべきは、その他の収益(注記番号27)です
えっ!?その他の収益が営業利益に占める割合多すぎじゃない!?
ここです。2017年3月期も、2018年3月期も、営業利益の大半(6割くらい)を「その他の収益」が占めています。
そして、注記27(107ページ)を見ます。

しっかりと「負ののれん発生益」が明記してありますね
これで謎は解けました。
・IFRS上、「負ののれん発生益」はP/Lには出てこないが、注記に出てくる
最後に
いかがでしたでしょうか?
今回は、会計士としてどのように決算書を読んでいるか、僕なりの方法を書きました。
少しでも皆さんの決算書の見方の参考になれればと思います。
また、負ののれん発生益というのは、上述にもある通り、PBR1未満の会社で生じやすいものです。
株価は、その会社の将来の業績や事業の伸長、経済の動向など、様々なものから決定されます。
ですが、株価が低い=その会社の将来の事業伸長が見込みにくい状況であるとも言われています。
結果として、負ののれん発生益を認識することは、買収した会社の立て直しに苦労するのではないか、という推測を立てることもできます。
決算書を読み込み、事実を見ること、そしてその事実から自分の仮説を立てることができます。
決算書読みは結構楽しいんですよ^^
ではまた~